生の秘鑰

 

 

 

自他の確立が途上なうちは

他を排除し、自分が誰にも理解されないような高尚な思想を有していると妄想し、唯我独尊と孤独による一種の高貴さを味わう。

 

 

唯我独尊も自己嫌悪に成りはてれば、自と他の境界すらニヒリズムのなかにぼやける。
言葉の悦にひたるだけでは言葉は育まれず、思想が結実する術も掴みそこねる。

欲しいがままに他を除いて築いた自己はいずれぶつかる。
未熟さが現実にぶつかる。もののあわれに口ごもりだして、癇癪に焦がれていく。
そういう自己崩壊を守ろうとするから、自己を未開花のうちに殺すという仕懸けを敢えてするはめになる。

 


秘密としたもの、それは自らの決心そのものだ。
身勝手に立てた決心が先立ちながら、分かってくれないから、理解してくれないからと言って他者を責めてもよいという理由にはならない。
このような自分は理解されまいと、愛されまいと決心したのは自己そのものだ。

 

その闇は、生命の産物が恋しくなるようにただはかない夢にすぎない。
現実に対する配慮さえ意識すれば、その夢が今という時間を捧げものとして供する祭壇になることは無いのだから。


自己を偽って誇張するものは漠然と遠くより望めば、いかにも誠ありげであるが近づき詳細にみれば何でもないのである。
命あれば新陳代謝はつづき、案山子のごとくつんのめるわけにもいかない。生まれたからには皆等しく自らの舟で舵を取る。
このことが分からないうちは、面倒を見なければならないのは自分自身であって、まわりの世界ではない。
やがては、自分の軽薄さや浅慮さ加減で他者の舵取りに任せようとはしなくなる。

 

そうやって思いもかけず、または持続する自己の意思によって、生者は自分を運び続けていく。